労災と医療保険は併用できる?二重でもらえる?

最終更新日:2021/09/09

新型コロナウイルス感染症の影響で休業する人が増える中、生活を補償するための制度への必要性は高まる一方です。では、労働者が休業する際にもらえるお金にはどのような種類があるのでしょうか。本記事では、休業補償と休業手当・傷病手当の違いや、給付金の条件などを解説します。

労災保険と医療保険は併用できるのか?

労働者にとって予期せぬ事故やけがのリスクは常に不安の種。そうした就業中に起きうる想定外の災害に遭った人へ金銭的な補償をしてくれる制度が労災保険です。では労災保険と、生命保険や医療保険など民間保険を併用して申請することはできるのでしょうか。結論からいえば、労災保険と医療保険をかさねて申請することは可能です。ここでは、労災保険の特徴と他の保険との違いに触れながら説明します。

労災保険と医療保険の違いはなに?

労災保険とは、いざという時国民の生活を守る公的保険制度のひとつです。わが国の社会保険の種類は次の5つです。

・健康保険
・年金保険
・介護保険
・雇用保険
・労災保険

このうち雇用保険と労災保険の2つをまとめて「労働保険」と呼びます。

労災保険の目的は労働者を保護することにあります。労災保険は法律で定められた事業主の義務であり、従業員を一人でも雇用していれば必ず加入しなくてはなりません。

それに対して、生命保険や医療保険は民間の企業が提供している商品であり、必要に応じて任意で加入するものです。生命保険は元来、契約者が亡くなった場合の遺族への支払いを想定し、医療保険はけがや病気による入院や通院費用の補償を目的としています。労災保険は業務上における災害に対してのみ給付対象で、医療保険は生活全般でのけがや病気に対応しています。

保険料も全額事業主負担であり、生命保険や医療保険は個人が負担するといった違いがあります。

労災保険の対象者

労災保険は非正規雇用の労働者やアルバイト・パート、試用期間中の人も含めてすべての労働者が対象です。万が一適用されていない場合、労働基準監督署に申請することで補償を受けることができます。一方で、使用者にあたる社長や役員、自営業・個人事業主は原則対象外です。ただし、フリーランスや中小事業主であっても、労働者と同様に保護するのが妥当とみなされれば「特別加入制度」により認められることもあります。その場合、別途保険料が変わることもあります。

また、国家公務員や地方公務員には、国家公務員災害補償法や地方公務員災害補償法が適用されるため、労災保険の対象になることはありません。

労災保険の仕組み

労働保険には雇用保険と労災保険がありますが、どちらも法律で加入が義務付けられており、労働者の安心を守る制度として運用されてきました。雇用保険は失業時や育児休暇時に補償される公的保険の制度であり、雇用主と労働者が折半して保険料を支払っています。請求申請は地域のハローワークで行います。これに対し、労災保険の保険料は事業主が全額負担し、労働者は負担しません。保険料は職種ごとに違います。労災が多く発生する職種では保険料が高く、逆に少なければ安くなるという仕組みです。労災保険を申請したからといって「会社に迷惑がかかる」「支払う保険金が上がる」といったことはありませんので、必要時には正しく申請しましょう。

労災保険は業務中および通勤時のけがや疾病、死亡時に対して保障される制度です。災害で生じたけがや疾病のレベルに応じて給付の種類や金額が決まる仕組みです。働ける状態か否か、長期にわたる治療か、残った障害の等級などに応じて細かく設定されています。給付対象となる主な事案は大きく以下に分類されます。

・業務災害
・通勤災害
・第三者行為災害

上記の災害が起きてしまった場合は、個人で労働基準監督署に申請するか、一般に就業先の会社が代行して申請手続きを行います。労災と認定されれば、種々の給付を受け取る流れとなります。仮に会社が労災保険に加入していなかったとしても、労働基準監督署に相談し所定の手続きをすれば適用されます。

労災保険の判断する基準とは?

管轄の労働基準局が諸々の事実を勘案して判断します。その際「業務上の災害なのか」「傷病や障害の程度がどれくらいなのか」といった内容を、事業主へのヒアリングや医師による証明などで決定します。より具体的な判断基準は以下の通りです。

・業務遂行性:業務中の事故であること
・業務起因性:業務が原因であること

すなわち、業務に関連する状況下で起きたけがや病気あるいは死亡に対して適用されるということです。業務中であっても業務に関係のない私的な行為によるもの、個人的なトラブルにより第三者から暴行を受けた場合などは対象外です。また、台風や地震など天災によるものも対象になりません。精神疾患についても認められる可能性がありますが、あくまでも業務と関係があると判断された場合に限ります。

業務災害

「業務災害」とは業務中に起きた災害を指します。昼休みであっても、会社の管理下にある状況で発生した災害は労災保険の適用範囲に含まれます。また、外回りの営業中や取引先で巻き込まれた災害も含みます。出張先の宿泊所でのけがなど就業時間外でも業務に起因すると認められれば業務災害の対象になります。

また、パワハラやセクハラが原因で精神疾患を患った場合も、対象になる可能性があります。これには疾患と業務との因果関係が医師などによって証明される必要があります。また、平成30年度の労災認定で、精神障害が認められた割合は全体の3割程度です。

通勤災害

「通勤災害」は通勤時に発生した災害です。通勤とは就業場所と自宅間あるいは出張先などとの往復の過程を指します。たとえば「出社時にタクシーに乗り、追突事故に巻き込まれた」「徒歩で移動中に駅の階段で転んで骨折した」「電車の事故でけがをした」などが該当します。たまたまいつもより早い時間の電車に乗った場合や、いつもとは違うルートで帰宅した場合であっても、常識的に考えて合理的な通勤ルートであれば認められます。

ただし、帰路の途中で娯楽施設や飲食店に寄った際に巻き込まれた事故などは対象外です。コンビニエンスストアに少し寄って、すぐ規定のルートに戻ったというような程度であれば通勤災害として処理してくれるでしょう。

第三者行為災害

労働者や事業主以外の第三者によって引き起こされる災害を「第三者行為災害」といいます。車の事故などで第三者が絡んだ場合、自賠責保険の利用などで問題が生じることがあります。なぜなら、自賠責保険と労災保険の併用はできないからです。このような場合、自賠責保険は状況によって保険額が変動することと労災保険であれば全額補償されることを踏まえ、どちらが得になるかを考えて判断すればいいでしょう。

労災保険と健康保険の違いはなに?

事業主と労働者の支払い額における割合と、適用されている傷病が違います。健康保険には大きく分けて市区町村が運営する「国民健康保険」や、企業が組合を作っている「健康保険組合」「協会健保」などがあります。一般的に企業において健康保険といえば国民健康保険以外を指します。国民健康保険は労働者と労働者の家族が加入する公的制度です。労災保険の保険料は事業主が全額負担しますが、健康保険は事業主と労働者が半々で負担します。労災保険は業務上起きた災害に対しての補償であると述べました。

それに対して健康保険は、業務以外の日常で起こる傷病に適用されます。したがって、業務に関係することで起きた事故やけがの補償を健康保険でまかなうことはできません。もし間違えて、労災保険で申請すべきところを健康保険で申請してしまった場合はどうすればいいのでしょうか。

受診した病院にすみやかに申し出て労災保険への切り替え手続きをしてください。切り替えが可能であれば、その時点までに支払った金額が病院の窓口で返還されます。切り替えができない場合は、一旦全額負担をすることになります。その上で労災保険の申請をしてください。

労災保険なら自己負担は一切ありませんが、健康保険は3割負担です。このように、適切な申請手続きをしないと不要な時間と手間、一時的とはいえ余計な出費がかかってしまいます。そうならないためにも、最初の段階で労災保険の補償対象なのか、健康保険の範囲なのかきちんと調べて正しく申請しましょう。

労災における給付は他にもある?

労災保険には療養(補償)給付をはじめ、さまざまな給付があります。

・労働者が死亡した場合:「葬祭料」「遺族補償給付」
・負傷・疾病の場合:「療養補償給付」「休養補償給付」「傷病補償年金」「介護補償給付」
・後遺症が残った場合:「障害補償給付」「介護補償給付」
・健康診断で異常が見つかった場合:「二次健康診断等給付」

以上のように、給付条件や内容も段階によって多岐に渡ります。
代表的なものを以下で詳しく解説します。

療養給付

業務に起因するけがや病気により入院することになった場合、必要申請書類の提出で入院費用や薬代など治療にかかるすべての費用が一切不要になります。その際、診察や治療を受ける場所が「労災保険指定医療機関」であることが条件です。一方、労災保険指定医療機関でない場合、後日労働基準監督署に必要申請書類を提出することで、かかった費用がのちに返還されます。いずれにしても最終的に自己負担額はゼロになります。

手続きの煩雑さや一時立て替えることを考えると、最初から労災保険指定医療機関を探したほうがいいでしょう。

休業給付と計算方法

労働災害に遭ったことによる傷病で働くことができなくなった場合、休業(補償)給付金が支払われます。

・業務で発生した傷病である
・働くことができない状況である
・賃金を受けていない

また、給付基礎日額という過去3か月のボーナスや特別賃金を除いた給与の平均額を計算すしなくてはいけません。最初の3日間は待機期間とし、その間必要な費用は事業主が支払うことになります。これに加えて、休業(補償)特別支援金が1日につき給付基礎日額の20%加算されます。

計算方法をまとめると、

4日目以降
・休業(補償)給付額=給付基礎日額×60%
・休業特別支給金額=給付基礎日額×20%

となります。

仮に直近3か月の平均給与が20万円の人の場合、
・休業給付額 20万×0.6=12万
・休業特別支給金額 20万×0.2=4万  合計16万円

のように給付されます。

障害(補償)等給付

業務や通勤を原因とする負傷や疾病が治癒した時点で、身体に一定の障害が残った場合には、「障害補償給付(業務災害の場合)」「複数事業労働者障害給付(複数業務要因災害の場合)」「障害給付(通勤災害の場合)」が支給されます。給付内容や給付額は残った障害の等級に応じて変わります。なお「治癒した」という言葉は原状回復を意味するのではありません。回復過程が固定し、医学上それ以上の医療効果が期待できない場合を指します。

傷病(補償)年金

業務や通勤に起因する負傷や疾病の療養開始から1年6か月が経過したその日およびその日以降に、一定の要件に該当するとき「傷病補償年金(業務災害の場合)」「複数事業労働者傷病年金(複数業務要因災害の場合)」「傷病年金(通勤災害の場合)」が支給されます。一定の要件とは、以下のとおりです。

・その負傷または疾病が治っていないこと

・その負傷または疾病による障害の程度が傷病等級表の等級に該当すること

一例として、傷病等級が第一級であれば傷病(補償)年金が給付基礎日額の313日分、第二級なら277日分が支払われます。詳細は厚生労働省のホームページや労働基準監督署でご確認ください。

まとめ

労働者を保護する目的の労災保険は、業務中および通勤時に発生した災害に対して給付される公的保険制度です。掛け金である保険料は事業主がすべて負担し、入院や治療などにかかる医療費の自己負担は一切ありません。さらに、個人が任意で加入している生命保険や医療保険との併用も可能です。一方で、企業などで加入している健康保険は、業務外で起きた傷病についてのみ適用されます。そのため、業務上起こったけがや病気は必ず労災保険で申請する必要があります。健康保険で申請しないように注意してください。健康保険は3割負担であることを考えると、労災保険は手厚い補償といえます。こうした労災保険の仕組みを正しく知って、いざという時に迅速な手続きができるよう心構えをしておきましょう。

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